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『団地の資産価値を高める!』貴重な取り組み事例を紹介

横浜市青葉区に佇む37棟・総戸数820戸からなる大規模集合住宅『すすき野団地』。築46年が経過し、建物の高経年化と住民の高齢化という問題に直面するものの、今年登記された「団地管理組合法人」が中心となり、様々な形で団地に活気を取り戻すための活動が実現しています。2017年から理事長を務める小柴健一さんに、現在同じような悩みを抱える日本各地の団地から注目を集める、先進的な取り組みについて話を伺いました。

※本記事は、2020年にマンション・ラボに掲載したものを、一部編集して再掲載するものです。


住民同士が助け合う「団地」の魅力

在宅介護の仕事に従事し、高齢者の現状や未来への不安を深く考えるようになったという小柴さんは、住民同士が助け合うコミュニティが築ける「団地」でのライフスタイルを望み、夫婦2人での生活となったことを機にすすき野団地に転居しました。

「日当たりの良さ、豊かな自然に囲まれた環境、スーパーやドラッグストアなどが近くにある利便性、バス便が豊富で都心に出やすい交通手段など、この団地が持つ、資産価値としてのポテンシャルに惹かれました。一方で、発売当時30代で購入した入居者も、現在では後期高齢者となっているコミュニティの現状には危機感を持っていました。そこで『この団地のより良い未来のために貢献したい』という強い思いから、団地内の中長期的な課題を話し合う『すすき野21委員会』に参加したことが、管理組合に関わるようになったきっかけです」と語る小柴さん。しかしなかなか建設的な話に発展しない現実に直面し、頭を悩ませたといいます。

深夜までバスが引っ切り無しに運行する交通利便性も、すすき野団地の高いポテンシャルの一つ。

「メンバーで団地内を歩き、課題を抽出することから始めました。そこでソフト、ハード両面で改善すべきところを『見える化』していったのですが、そこからなかなか思うように事を進めることができなくて…。そこで自分も本腰を入れて取り組まねばと、管理組合に入り、理事長に立候補しました」。ここから、小柴さんのすすき野団地の再生へ奮闘が始まりました。

持ち寄った食事をつつきながら、団地の課題を語り合う

理事長に就任した小柴さんが行ったのは、住民が団地に関する意見を気軽に交換することができる『持ち寄り車座集会』の開催でした。

「それまで総会はいつも紛糾し、議事進行が大変でした。しかし考えてみると、みんな自分たちの団地をより良い場所にしたいという想いがあって、それを共有したいと集まっている。その場が総会しかないことが問題なのではと感じたんです」と小柴さん。

そこで住民同士が持ち寄った食事を囲みながら、日頃思っている団地の課題や改善策を、ざっくばらんに話せる場を、月1回設けることにしました。

「一つひとつの意見に真摯に耳を傾けて、すぐに改善できるものであれば対応する。そんな姿勢で回を重ねていくうちに、団地内の風通しが良くなってきた感じがしました。やはりみんな胸のうちを誰かに聞いてもらうと楽になるんでしょうね。次第に総会での質疑は少なくなっていきました」。

すぐに実現できるアイデアからカタチに

住民と膝を突き合わせ、敷地をみんなで歩き、すぐに実現できるアイデアからカタチにしていくために活動した小柴さん。階段やスロープに手すりをつける、遊歩道脇にベンチを設置するなど、施設や景観の改善を徐々に進めていきました。

スロープに取り付けられた手すりや遊歩道脇のベンチは、
敷地を歩きながら出されたアイデアを実現したもの。
集会場前のスペースも綺麗に整備。今後は植栽を増やし、
賑やかなガーデンにする予定だそうです。

その好例が、2019年から始まった『すすき野団地ミツバチぶんぶんプロジェクト』。団地内に花を増やして景観をアップさせたいという目的でスタートした取り組みですが、さらに興味を高めるために「養蜂」の要素を取り入れ、ミツバチが集めた蜜の量で団地内の植栽の充実を可視化しようというものです。

「団地の全戸に参加を呼びかけたところ、約30名が花植えに集まってくれました。そのメンバーが中心となり、その後『すすき野ガーデンクラブ』というサークルに発展。今も月1回程度のペースで、敷地内にきれいな花を植えてくれています」と、自分で仕掛けたプロジェクトの輪が住民たちに広がっていることを嬉しそうに語る小柴さん。
この活動は東急株式会社が公募した2019年の「『みど*リンク』アクション」に認定され、養蜂道具や花苗、肥料などの提供支援を受けています。

『すすき野ガーデンクラブ』という住民サークルは、団地内のスペースに
花を植える環境美化活動を現在も継続しています。

リノベーションで、団地の資産価値を向上

すすき野団地では、首都圏を中心に老朽化した団地のリノベーションを行っている団地再生事業協同組合(東京都港区)のコンサルティングを受けながら、専有部のリノベーションによる資産価値向上対策にも積極的です。
すすき野団地は、団地再生事業協同組合の「三ツ星団地」の第1号物件として認定されました。これは「居住環境」「運営・経営」「コミュニティ形成」という幅広い観点から団地を評価し、築年数では測れない不動産価値を数値化する取り組みで、要件を満たしたリノベーション住戸の購入者には、将来の買取り保証をするなどの特典があります。

「とても築46年の団地とは思えないような、おしゃれな内装に変身させて、団地での快適な暮らしを楽しむ若い人たちが増えています。鉄筋コンクリートの耐用年数とされる47年は、あくまで税制上の減価償却用の年数に過ぎません。このような築年数では測れない、本当の資産価値を高める新しい団地の活用を、管理組合と住民が一緒になって促進していけたらいいですね」。

スタイリッシュに大変身した室内と、そこですすき野団地での快適な暮らしをエンジョイする住民の様子は雑誌でも取り上げられ、新たな団地の魅力の発信にもつながりました。「エレベーターのない団地ですので、4階5階は空き家になりやすい。そこに若い世代の人たちに入居してもらう手段としても、この取り組みは価値があると思います」と小柴さんは話します。

室内をスタイリッシュにリノベーションする取り組みは
雑誌でも紹介され、大きな反響を呼びました。

100年快適な集合住宅を目指し、行政・企業とコラボレーション

これまで管理組合と住民が一体となって、目の前の様々な問題に向き合ってきたすすき野団地。そこからさらに一歩踏み出し、この先団地が抱える中長期的な課題について話し合う『すすき野団地未来会議』を2018年から開催しています。

「修繕や建替え、さらには『こんなことが団地でできればいいな』という企画などを話し合い、住民主体で将来のビジョンを決めて、3年計画でマスタープランにまとめるのが『すすき野団地未来会議』です。欧米に存在するような100年続く集合住宅を目指し、永く快適に暮らすための様々な意見を出し合っています」と小柴さんは開設の意義を説明してくれました。

住民だけでなく専門的な視点も交えようと、横浜市の「マンション・団地再生コーディネート支援事業」を活用。開催2年目からは横浜市政策局とも協働し、行政・企業・大学・研究機関、そして住民が一緒のテーブルにつく『すすき野団地リビングラボ』という形態に発展させました。

「例えば団地の空きスペースを利用して太陽光電池パネルを設置する、再生エネルギーを使った電気自動車のカーシェアを始めるというアイデアは、団地と企業がコラボしなければ実現しません。これからは外の力もうまく活用しながら、リビングラボを団地の新しい価値を見出す場として続けていければと考えています。超えるべきハードルはいくるもあると思いますが、越えられない高さではない。またここで成功することができれば、ほかの団地へ横展開することもできます。すすき野団地の活力が、周辺の団地まで元気にするということができれば最高です」。

法人化で、さまざまな事業を展開

すすき野団地リビングラボを続けていくなかで、その方向性が「敷地の維持管理・修繕」という管理組合本来の目的と馴染まないと感じた小柴さんは、新たな活動母体として『団地暮らしの共創』という一般社団法人を立ち上げました。そこで管理組合では困難な事業性のある計画を推進したり、これまで管理会社に委託していた清掃業務などの事業を社団法人で請け負いコスト削減につなげる、という活用をしていくそうです。
また例えば、団地内の空き家を社団法人が保有し、コワーキングスペースや託児スペース、事業・店舗への貸し出しなどへ有効活用するというような、思い切った展開を行ううえでも有効であると、小柴さんは考えています。

「長いスパンで団地の将来を見据えるには、理事が一定期間で交代する管理組合や自治会という形態で対応していくには無理がある。この一般社団法人の設立には『動ける人たちが、長期的に動ける』という状態をつくるという意図もあります。理事長経験者や自治会長経験者など、いわば『すすき野団地のプロフェッショナル』が集まり、明るいビジョンを一つずつ実現していきたいと考えています」と小柴さんは言います。

今年5月いっぱいで、小柴さんは理事長の任期を終え退任。今後はこの一般社団法人団地暮らしの共創の代表理事として、引き続き管理組合をサポートしていくことになっています。

安心・安全に暮らせる環境をつくる

これまで理事長として、すすき野団地の今と未来を明るくするために精力的に活動してきた小柴さん。その熱い想いの源について尋ねると、次のように答えてくれました。

「『理事長はなぜそんなに頑張るのか?』と聞かれることがあります。その答えはただ一つ。『自分が暮らしている団地を、楽しい場所にしたい』ということです。自分が歳をとった時にも安心して、安全に暮らせる環境をつくりたいだけなんです。それが周りの人のためにもなるのであれば嬉しいじゃないですか」。

820もの家族が、広い敷地を共有するすすき野団地。これからも、日本中に存在する高経年化した団地が再び活気を取り戻すための先駆けになるような取り組みを実現してくれることでしょう。

「最近よく耳にするSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の
「“誰一人取り残さない”世界の実現」という理念を、団地というコミュニティで実現したい」と
熱く語る小柴さん。

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