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マンション理事のぶっちゃけ本音シリーズ「出世魚のように管理組合を上り詰めた!」~菅さんのケース~

仕事に忙しい働き盛り世代が、管理組合の副理事長や理事長を務めるのは大変なことです。
今回ご紹介する菅(かん)正博さんは、初めての理事で副理事長、そして大規模修繕工事の実施年度に理事長を務めたというのですから、さらにハードルは高かったはず。そんな菅さんが、副理事長から理事長へステップアップした出世魚ストーリーを、ぶっちゃけ本音でお話いただきました。

※本記事は、2020年マンション・ラボに掲載したものを、一部編集して再掲載するものです。本記事の写真、文章は当時の情報のまま掲載しています。


●築50年弱の小規模マンションで最初は副理事長からスタート


溝の口にある、本格江戸前すし店「鮨 すがひさ」店主の菅 正博さん。
ミシュランガイドに3年連続取り上げられた大阪のすし店「鮨 千陽(ちはる)」で修行したのちに、2017年に独立してお店を開店しました。

菅さんは、11年前から、田園都市線沿線の築48年・総戸数40戸弱のマンションにご家族でお住まいです。

菅さん
初めてのマンション購入でした。川崎市は住みやすい街だと聞いて、このエリアで探しました。いまのマンションは、目の前が小学校で、子育て環境は抜群。マンションは坂道に建っていて、見晴らしが良くて気に入っています。入居時に理事長さんのところへ挨拶に行ったら、75〜6歳位の方で「あれ、結構ご年配の方なんだな」と思ったんですが、実はほとんどの住民がその位の年代の方でした。

マンションは築48年ということもあり、竣工時からお住まいのシニア世帯が6割、途中で入居した若い世帯が4割ほど。1年毎の輪番制で担当する理事は、6人構成となっています。

菅さん
戸数が少ないということは、輪番制の理事も早く回ってきちゃうんです。入居後2〜3年で、初めての理事が回ってきました。うちのマンションについては何でも知っている「生き字引」的な先輩理事さんが何人かいらっしゃいました。私は初めての理事ということもあるし、まずは様子見という感じでした。長年お住まいの理事さんたちに教えを乞うかたちで、副理事を務めました。

【ここがポイント!】
長年住んでいてマンションをよく知る先輩理事に教わる!

 ●誰もやりたがらなかった大規模修繕工事年度の理事長に立候補


10数年毎に行う必要のある大規模修繕工事。工事費用の見積り、施工会社の選別、工事実施期間中の安全確認など、管理組合の役割も多岐にわたります。(※写真はイメージです)

菅さん
戸数が少ないので、だいたい3年ごとに理事が回ってきます。入居後6年目に回ってきたときは、ちょうどマンションとしては3回目となる大規模修繕工事を実施する年。誰も理事長をやりたがらないし、話も終わらないので、自ら立候補して理事長を務めることにしました。すでに前年度の理事会が、施工会社数社の相見積りまでとってくださっていたので、私たち理事会は、どの会社にするかを決めて、総会決議をとるというところから始まりました。

大規模修繕工事では、たとえば外壁のタイルの色を決めるにしても、住民に周知して意見をまとめることが大切。集会室に、微妙に色が異なる候補のタイルを並べて、住民みんなが実物を見て確認出来るようにしました。(※写真はイメージです)

大規模修繕工事が始まると、バルコニーに置いているモノを片づける、洗濯物が干せない時期があるなど、生活の上でさまざまな問題が発生します。それらは管理組合や管理会社に集約して、ひとつひとつ解決していく必要があります。

菅さん
パラボラアンテナをベランダに付けているおばあちゃん住民から、「工事の足場を組む前に、自分で外さないといけないのか?」と、直接電話で聞かれたりもしました。私も建築とか工事の専門家ではないので、住民から問い合わせが入る度に理事会と管理会社につないで、どうやって処理するかを決めていく、ということを繰り返しました。専門知識と経験値のある管理会社さんには、いろいろ助けていただきました。

一方、店主である菅さんの仕事は激務です。早朝から市場で仕入れを行い、朝8時からお店で仕込み、そして11時〜14時までランチタイムの営業、夜の仕込み、17〜23時までが夜の本営業。理事長時代は、お店の休日である日曜日に理事会を開催するというスケジュールでした。これはどの働き盛り世代にも言えること。理事の仕事って、自分のことだけを考えていたら、なかなかできませんよね。

菅さん
世帯主であるご両親の介護で理事の仕事ができないという娘さんもいらっしゃいます。皆さんいろいろな事情がありますので、相身互いで協力し合っていくしかありませんよね。住民同士のコミュニケーションはとっておくにこしたことはないなと思いますね。理事になったことで顔見知りも増えますし、何かあったらときに助け合えますから。

【ここがポイント!】
相身互い(同じマンションに住む仲間として助け合うこと)という意識

●住民の意見は、まず受け止めることが大事


優しい笑顔の菅さん。こんな方が理事長なら、つい頼りたくなっちゃいますね。

菅さんは、すし店というお客様相手のお仕事をされているせいか、とても人当たりが柔らかい方です。理事長としての役割にも、お仕事の能力が活かせているのではないでしょうか?

菅さん
うーん、客商売という意味では、もしかしたらそうかもしれませんね。理事長としての私の役目は、住民から何か問い合わせや意見が届いたら、まず相手の話を「そうなんですか」と聞いて受け止めることですね。そのときに否定したり、ひとりで決断したりするのではなく、「大変ですよね」と、一旦お話を預かってから、ほかの理事や管理会社につないで解決します。

何か問題が起きたときには、誰かに親身になって聞いてもらえるだけで、不安が取り除けます。相手が伝えたいことに向き合ってしっかりと話を聞くことができる人って、意外と少ないもの。相手を受け入れて、その話に共感することを「傾聴」と言います。「傾聴」はコミュニケーションのキホン。ビジネスでも理事会でも、互いに「傾聴」すれば、課題解決がスムーズにいきそうです。

【ここがポイント!】
発生した問題は、傾聴する!共有する!

●マンションは「鮨」だ!


「今夜の仕込みは蟹です」と、菅さん。一手間も二手間もかけた、丁寧な仕事が評判です。

菅さんは、以前タイ料理店で働いていて、その後に修行をして独立し、すし職人となったという職歴の持ち主。正統派の江戸前ずしを提供しているお店ですが、毎月1回だけ常連さんに乞われてタイ料理を取り入れた鮨コースを提供する「変タイ鮨の会」を開催しています。正統派江戸前ずしの基本を大切にしつつ、ときに自由な発想でタイ料理の鮨コースを考えるという柔軟な発想力は、理事の仕事にも息づいているのではないでしょうか?

菅さん
「変タイ鮨の会」は、マニアックな常連さんのご要望にお応えしている、いわば裏メニュー。本筋は、あくまで表(おもて)の江戸前ずしです。だから、スパイスの香りが店内に付かないように、本来の営業日ではない日に、月1回程度と決めています。ただ、表でも裏でも、この食材で何か新しい味が出来ないかな、というのは常に考えていますね。

研究熱心な菅さんの、丁寧な手仕事が施された江戸前ずしが食べたくてお店へ通うファンが多く、地元・溝の口の街に根付いています。

シャリは住民、ワサビは理事長、ネタは管理組合。とすると、ガリ(生姜の甘酢漬け)は、さしずめ管理会社さんでしょうか?

菅さん
マンションって、握りに例えることができるのかな、と思います。シャリは住民、ネタは管理組合、理事長はその間に入ってピリッと辛みを利かせるワサビ的な役割。ワサビのない握りってさびしいでしょう? 理事長が権限をふるって辛みが利き過ぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。素材の美味しさを引き出すために、ネタによってワサビの利かせ方も変わってきます。ワサビは絶妙のバランス感覚で、シャリとネタをまとめる役割もあるんです。あ、なんか僕、うまいこと言いましたね?(笑)

うーん。確かに名言です。ワサビ、シャリ、ネタ、3つの味のハーモニーが調和してこそ、美味しい握りが完成します。マンションをうまく動かしていくには、こういう視点も大切ですね。

●年代格差、働き盛り世代とシニア世代の方向性の違い


お店のカウンターでは、菅さんの手仕事を目の前にしながら、握りをいただけます。

マンションの大規模修繕工事は、大きな問題が発生することなく無事完了。住民の意見を受け止めつつピリッと利かせるワサビ役の理事長・菅さんがいたからこそ、管理組合もスームズに機能したのではないでしょうか。

とはいえ、いつもうまくいく訳ではありません。
駐車場の空きが増えてきたので、空きスペースにカーシェアを導入しようという提案は、多数決で却下されました。高齢の住民からは「カーシェアなんて使わないから」という意見が出ました。またカーシェアの場所をとると、高齢の住民がふだん利用する介護タクシーのスペースがとれないという問題もありました。

菅さん
この提案が出たときは、カーシェアがいまほど浸透していなかった時期だったせいかもしれません。しかし言われてみれば、まあそうかな、と。ただ、車を所有しない若い世代の住民も増えているし、いまならカーシェアがあれば便利だったかもしれません。これから駐車場収入が目減りしていくと、マンションの財源にも関わってきます。若い世代向けのカーシェアと、高齢世代向けの介護タクシーがうまく結びつくサービスがあったらいいんですけどね。

菅さん
うちのように築何十年のマンション共通の課題だと思いますが、住民の年代格差があると、意思統一が難しいですね。30〜40代の住民は「もっとマンションを良くして資産価値を高めよう」と考えるし、70〜80代の住民は「そこまでしなくても現状維持でいいのではないか」と考えがちです。その世代格差をまとめてくれるリーダー役がいれば、この問題も解決するのかもしれません。

最後に、副理事長、理事長を務めて、菅さんの意識はどう変わったのでしょうか?

菅さん
いままで理事を務めたことがなかったので、住まいへの認識が変わりましたね。特に理事長として大規模修繕工事を経験して、工事の全貌を知ることができたのは大きいです。メンテナンスの重要性を痛感し、「住んでいるマンションを良くしたい」という思いも新たになりました。


菅(かん)正博さん
 田園都市線の築48年の小規模マンション在住。輪番制のクジ引きで入居2年後に副理事、6年後に大規模修繕工事実施年度の理事長となる。溝の口にある本格江戸前寿司店「鮨すがひさ」の店主。

鮨すがひさ

短期間で回ってくる理事職を、自分の状況に合わせてステップアップしながら、無事にマンションの大規模修繕工事を終えた菅さん。理事って一度やってみると、自分の意識が変わって、マンションを良くしていきたいという思いを増すものなんですね。体験してみないとわからないものです!

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