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「修繕は一日にしてならず。」大規模マンションから、長期修繕計画の心得や考えを学ぼう!

今後増加が予想される、マンションの長期修繕。
大型プロジェクトとも言える工事の費用や期間、管理組合の運営方法など気になることはあるけれど、誰に聞けばいいのか困ってしまいますね。
そこで今回は、大規模マンションの先駆け「パークシティ溝の口」の、修繕委員会の取り組みをご紹介します。築35年を経ながらも、資産価値を維持し、住民主体による管理・修繕の取り組みが注目を集めています。その経緯やノウハウについてうかがいました。
 
※この記事は2016年9月にマンションラボに掲載したものを一部編集して再掲載するものです。また、役職なども当時のままとなっています。ご了承ください。

【取材物件紹介】
マンション名:パークシティ溝の口
・築年月:1982年3月~1984年3月
・総戸数:1,103戸
・階数:高層部分-15階建て(5棟) 低層部分-4階建て(7棟)
・構造:高層棟:SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造) / 低層棟:RC(鉄筋コンクリート造)


円滑な活動ができる『住民による修繕委員会』

今回お話をうかがったのは、修繕委員を10年以上やっている住民の矢野捷一郎さんです。パークシティ溝の口の修繕委員会は、住民主導によって運営されています。当初は管理会社に任せていましたが、1998年に管理会社主導で初めて大規模修繕を行った際に、数々の問題が発生しました。
それを機に、管理会社に任せっきりではいけないと実感し、2005年に管理組合の中に住民による修繕委員会が設立されたのです。

管理組合組織図:パークシティ溝の口の管理組合には、理事会と住棟委員会(合同会議)のもとに6つの管理分科会があり、その下に3つの専門委員会があります。修繕委員会は修繕分科会の下部に位置し、現在の委員は11名ほどです。

合同会議や分科会のメンバーは、立候補やくじ引きで選ばれますが1〜2年での交代です。修繕委員会には修繕分科会メンバーも加わり、現・旧職業は会社経営・システムエンジニア・設計事務所・インテリアデザイナー・不動産会社・建設会社などさまざまな人が集まっており、そのことで、各々の得意分野や異なる視点が生かされ、バランスの良い会の運営が行われています。

また、修繕分科会でリーダーを務めた人が、修繕委員会の委員長になることが伝承され、蓄積されたノウハウを伝えられるように工夫もしています。
さらに、分科会のメンバーが交代のたびに活動が滞らないように、修繕委員会は決まった任期を設けずに、委員それぞれの状況により数年間とし、円滑に活動できるようにしています。

修繕のための、協力体制が築くもの

パークシティ溝の口では、管理会社やコンサルティング会社との信頼関係も築かれています。

初期の修繕でこそ、管理会社と住民意見が合いませんでしたが、現在では修繕委員会が得た住民が感じる問題点と、管理会社から来る資料をすり合わせて調整をしています。管理会社が作成した長期修繕計画案を、一つ一つチェックし、修正を依頼します。そのやり取りを何度も繰り返すことで情報を共有し、計画案がブラッシュアップされ、協力する体制が確立されるようになりました。
 
また、建築や設備・電気関連は、それぞれコンサルティング会社に意見を聞いています。パークシティ溝の口のような大規模マンションでは特に、建物や設備の把握に時間がかかります。最初のパートナー会社選定の際には、5社からヒアリングをして慎重に検討しました。その結果、現在の2社は10年以上の付き合いで、パークシティ溝の口について熟知しており、住民との信頼関係が築かれています。

管理会社との共同作業で作り上げられた資料が、今年度初めて総会資料に掲載されました。

重要な、住民同士のコミュニケーション

修繕委員会が特に力を入れているのは、住民への入念な説明です。
まず修繕委員会とコンサルタントによる説明会を開き、工事の内容を丁寧に説明します。その後、工事の内容により施工業者による説明会を棟ごと、住居タイプごとに分けて、土日や平日の夜を中心に何度も実施します。
また、実際に住戸をモデルとして先行工事を行い、工事中の生活がどのようになるのか写真を撮影し公開します。

時間も手間もかかりますが、工事をできるだけ納得して受け入れてもらうために、「手を抜かない、徹底的な説明が必要だ」と矢野さんは強調します。

周知のために、広報分科会の下部組織であるホームページ委員会も協力しています。パークシティ溝の口の住民だけが閲覧できるページを作成し、そこに修繕内容や工事の進行状況などを随時アップしています。

それでも、ホームページ委員会委員長の山本美賢(よしたか)さんは、「ホームページは閲覧されているもののまだ不十分です。館内放送の活用や、テレビで簡易番組を放送するなど、より効果的なアナウンス方法を検討している」と言います。その言葉から、広報を徹底する重要性が感じられました。
 
また、修繕への理解と協力を得るためには、日頃からの住民同士のコミュニケーションも重要です。コミュニティを形成し、顔の見える関係を作るため、餅つき大会や防災フェスなど、さまざまな交流イベントが催されています。

パークシティ溝の口の中間世代を引き継ぐ山本さん。
コミュニティ形成に積極的で、近隣マンションとのネットワークもつくっています。

実際にかかる『修繕費用』は?

さて、気になる修繕費用はどうでしょうか。

管理会社に支払われる管理費とは別に、修繕のための積立金があります。その額は専有面積により異なり、パークシティ溝の口の平均的な73〜78㎡の住戸で、月に1万3千〜1万4千円ほどです。

これは全国平均より低くなっています。その理由の一つは、全戸の工事を一度に行うことで、通常より安価にできるため。またもう一つの理由は、駐車料金の一部が積立金に入っているためです。
年間では、住民からの1億6千万円と駐車場の収入約4千万円を合わせて、約2億円が積立金となります。かなり大きな収入に感じますが、その支出もまた大きなもの。2008年〜2009年に行われた修繕工事では、総額約13億円かかりました。
 
長期修繕計画を立て、「支出面を算出する」のは修繕分科会(修繕委員会)です。そして、その金額を参考に「収入面を検討する」のは財政分科会の担当なので、両者の連携が重要です。
修繕委員会では、管理会社から定期的に上がってくる点検報告や、住民からのクレームなどから情報を収集し、いつ頃どこの工事が必要になるか検討し長期修繕計画を作成します。
次に、それにそって財政分科会が積立金を見直します。
現在までに値上げは、一度だけされました。合同会議で住民に説明し了解を得て、毎年20%ずつ上げ、5年間で倍になりました。
 
矢野さんによると、マンションは販売価格を下げるために積立金が低く(実際に必要な金額の半分程度)設定されていて、いざ修繕という時に予算が足りないことが多いとのこと。修繕費があまり掛からない10年ほどの間に将来の修繕計画を立て、現在の積立金で間に合うのか検討するのが良いようです。

修繕計画は、地道に、先手必勝

「修繕はとにかく先手、先手で計画しておくことが重要だ」と、矢野さんは言います。調査・計画・設計など、修繕実施に至るまでに通常3〜4年、最低でも3年はかかるからです。

建物の傷みが表面化してからでは対応が間に合わないので、いつ頃どこに修繕が必要になるか前もって情報を集め、把握しておく必要があります。
パークシティ溝の口では既に2044年までの長期修繕計画案が作成されていました。
 
このように修繕委員の仕事は時間と労力が必要です。会のメンバーは、各々の仕事もある中で時間をやりくりし、活動しなければなりません。けれども、その活動によりメンバー同士の絆が強まり、自分が住むマンションに対する愛着がより増しているようです。

矢野さんは、マンション建設の会社に40年ほど務めていました。2005年の修繕委員会の立ち上げから携わり、そのたゆまぬ活動は2011年に初めて行われた住民表彰(パークシティ溝の口に貢献した人物を表彰するもの)で選ばれたほどです。

そんな矢野さんは御年74歳。現在も精力的に活動する姿が他の委員会メンバー、ひいては管理組合全体のモチベーション向上にもつながっています。

深く広い知識と、マンション修繕・住民への情熱を語ってくれた矢野さん。

矢野さんたちは、無料でマンション管理の相談を受け付けている「特定非営利活動法人 かわさきマンション管理組合ネットワーク」(http://www.kawakan-net.or.jp)を利用し、とても助かったと言います。
そのこともあって、これから修繕を行う他のマンションから運営方法を尋ねられると、修繕委員会はボランティアで、その経験やノウハウを伝えていく活動もしています。
 
修繕はまだ先のように考えてしまいがちで、管理組合に任せっきりのところもあります。マンションによって、修繕費は管理費として一括納入していたり、積み立てをしていたりと違いがあるようです。自分のマンションの修繕費はどのくらいかかるのか、今、納めているもので足りるのか、管理組合はどう運営されているのか? などを、把握し検討する必要がありそうです。

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