みんなでワイワイごはんが食べられるって楽しい!新しくて懐かしい「まかない付きアパート」が人気のワケ
現在空室待ちが出るほどの人気の賃貸物件が、小田急線「向ヶ丘遊園」駅近くにあります。築50年弱の木造2階建てアパートで、なんと「まかない付き」! オーナーは、賃貸業の経験がまったくなかった元サラリーマン。それだけでなく、このアパートの暮らしぶり、入居者さんも管理人さんもオーナーも、みんなとっても楽しそうなのが魅力なのです。
※本記事は、2019年10月にマンション・ラボに掲載したものを、一部編集して再掲載するものです。
プロの料理人による「まかない付き」ってすごくない?
入居者に食事を提供する「まかない付き下宿」ってご存じですか? 学生さん向けに食事を出す集住スタイル。映画や夏目漱石の小説でしか読んだことがない!という若い人もいるのでは? いまでは「食事付き学生寮」という形態でわずかに残っているだけかも…。現代にもまかない付き賃貸アパートメントがある!しかも相当美味しいらしい!という噂を聞きつけて伺った「クロスコート向ヶ丘」は、小田急線「向ヶ丘遊園」駅から徒歩9分。駅からバス通りを進むと、なんと広大な緑地を有する生田緑地の敷地内にありました。
2棟ある「クロスコート向ヶ丘」のうち、1号棟の1階には10室の部屋が並び、2階に入居者向け食堂とレンタルスペースがあります。大広間に長い座卓が並んだ食堂は、なんだか夏休みに親戚の家に遊びに来たような親しみある雰囲気です。
入居者は、朝食は前日の12時迄に、夕食は当日の12時迄に予約を入れるシステム。SNSで連絡を入れるので、たまに「残業になったけど、残しておいて〜!」なんていう人も。臨機応変に対応できるのは、管理人兼調理師さんご家族が住み込みでいてくれているからこそですね。
夏山さん
土用の丑の日は、ふるさと納税で届いた鰻を差し入れて、「ひつまぶし」を出してもらったりしました。流しそうめんやたこ焼きパーティーをすることもあります。言い出しっぺは、いつも僕なんですけど(笑)。みんなで食べると美味しいし、なにより楽しいですからね。
現在の入居者は30歳代を中心に19歳から62歳までと幅広い。男女構成も半々で、4割ほどが留学生や日本で就職している外国の方々。意外に社会人が多い。もちろん入居者全員がまかないを食べる訳ではなく、居間へお茶だけ飲みにくる人も。自分の部屋とは別に、共用部分としてシェアダイニングがあるイメージです。
夏山さん
「クロスコート向ヶ丘」は、みんなでワイワイできるシェアハウスと、プライベートが確立したアパートのいいとこ取りなんです。水廻りは独立しているので、賑やかなのが好きな人は食堂に来るし、ひとりでいたいときにはそのまま部屋へ帰れる。「集」と「個」の使い分けができる、ちょうどいい距離感だと思います。
どうして「まかない付き」に!?
——「まかない付きアパートメント」という発想はどこから来たのでしょうか?
夏山さん
もともと1号棟の2階は、前オーナーの居住スペースでした。リノベーションしたときに、ここは民泊にする予定でしたが、法規則で民泊は難しいということがわかり、方針を変更。そんなとき、東郊住宅社の社長の池田峰さんの講演で、入居者向けの食堂「トーコーキッチン」の話を伺ったのがきっかけですね。うちでもそんなことができたらいいなあと。
→トーコーキッチン(https://www.fuchinobe-chintai.jp/toko_kitchen.html)※外部サイト
トーコーキッチンの事例の話から、「妹家族が住み込みで料理人をやってもいいって」と奥様から朗報がもたらされます。妹さんの夫は、和食の板前さんを経て、長年大企業の社員食堂や寮で勤務している調理師。定年間近でもあったのでこの機会に、家族で移住して住み込みで「クロスコート向ヶ丘」の管理人兼調理師を担当してくれることになりました。
夏山さん
なんといってもプロの調理師ですから。食堂に現れた入居者さんの顔を見てから、味噌汁の味噌を溶くし、揚げものも揚げる。お抱えの料理人がいるようなものですよ。
紆余曲折のスタートと新規入居者募集経路の開発
夏山さんは、家業が家主でもなく、長年大手企業に勤務してきた、会社員からのゼロスタートの大家さんです。これまで夏山さんが所有してきた不動産の中でも、「クロスコート向ヶ丘」は、いわゆる「ワケあり物件」でした。
夏山さんは、2018年1月に、数年間空き家だった築45年と築49年の母屋付き木造ワンルームアパート2棟、850㎡の敷地を購入しました。
公道に接する出入口部分が細い通路になっていて、その奥に敷地がある「旗竿地(はたざおち)」的な土地ということもあり、販売価格は土地の価格よりも格安になっていましたが、建物内には荷物も多く残され、敷地内は生い茂った樹木や雑草で覆われた状態でした。
夏山さん
知人が手がけた東京・谷中の古民家再生リノベーションを見て、いつか自分でも築古物件の再生を手がけてみたいと考えていました。簡単なリフォームで原状復帰できると見込んでの購入でした。しかし、いざリノベーションを始めてみると、内部にハクビシンや白アリが見つかって害獣害虫対策を施したり、建物の傾き補正工事、給排水設備の整備などの工事が必要になったり、「アパート+民泊」計画から「アパート+まかない付き+コワーキング」へ変更になったりして、結局外装・内装のリノベーションが完了したのはその年の9月でした。
とはいえ、春の転居時期を逃したこともあり、アパート部分の入居者募集は苦戦する結果となりました。しかも従来の不動産仲介業者では「築50年の木造アパート」と聞いただけで、価値を認めず、価格面での値下げを求めてくるような状況でした。
夏山さん
「クロスコート向ヶ丘」には、「古民家リノベーション×まかない付き×住み込み管理人×シェアスペース×コワーキング×生田緑地内という自然環境」という複数組み合わせた個性があります。それが差別化になるのですが、従来の不動産仲介の概念では、それを価値として見てくれない。
じゃあ、その魅力をわかってくれる人たちに直接伝えようと、シェアハウス専門のポータルサイト「ひつじ不動産」や、FacebookなどのSNSを中心に募集することにしました。内覧希望者にも、管理人家族が直接対応できるので、お互いに相手の人柄を見きわめられるのも良かったですね。
賃貸はハコではない、暮らしというコトを提供する場
「クロスコート向ヶ丘」は、築50年の古民家フルリノベーション、元板前さんによるまかない付き、コワーキングという個性を活かした賃貸として、新たな募集経路を開発して、大成功となりました。今後は、日本語学校との提携で外国人留学生を積極的に受け入れたり、日本に短期間住みたいという外国人の方の需要に向けてマンスリー賃貸を進めたりしていきたいと、夏山さんの構想は止まりません。
夏山さん
「クロスコート向ヶ丘」は、ただの賃貸のハコじゃなく、「コトを提供する場」です。ここで、いかにおもしろい暮らしを入居者さんに提供できるかということが重要だと思います。これからも、自分たちで手をかけて、そして楽しみながら、人と人のつながりを大切にしていきたいですね。もともとそういうのが好きで、半分趣味でやっているような部分もありますから(笑)。自分で楽しむ遊び心って大事なんだと思います。
(まとめ)
ユニークなまかないアパート「クロスコート向ヶ丘」誕生の背景には、さまざまな紆余曲折がありました。しかしオーナーの夏山さんは、できないことに直面する度に、そのことを武器に変えていく強さと臨機応変さで乗り越えてきました。
何より、オーナーさん、管理人兼調理師さんご家族、入居者さんの顔の見える間柄がステキです。Facebookでの日々の投稿を拝見していると、管理人ご家族が「入居者さんを家族のように思って接している」というのも頷けます。
「何かの時に頼りになるのは、遠くの親戚より、近くの他人ですよ」と、夏山さんがいうように、楽しいことから始まったコミュニティは、何かの時にも強い結びつきで助け合えそうです。
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